(104)ゲニウス・ロキ

 ゲニウス・ロキという言葉をご存じだろうか。ゲニウス・ロキは、ローマ神話における土地の守護精霊である。今では一般的に土地のアイデンティティ(らしさ)を表す言葉として、都市デザインの世界でよく用いられているようだ。わが国でも古くから、土地には八やおろず百万の神々が住んでいるという感覚がある。家を建てる際に地鎮祭を行うのもその表れだ。かつて人々は自然の恵みを最大限に得るために、また自然災害から大切な家族や隣人を守るために、土地の声を聞き、土地と共に生きてきた証だろう。

 さて、現代社会を見ると、モータリゼーションの進展と共に、人々は思いのままどこにでも行き、どこででも暮らすことができるようになった。地方都市では、先祖代々守ってきた里山の家や農地を捨て、車での通勤や買い物に便利な市街地近郊に戸建ての住宅を建てて住むようになってきた。一方、まち中にあった都市拠点施設も郊外のロードサイドに立地するようになり、結果としてシャッター街や駐車場だらけのまち中になってしまったのである。

 欧米では既存インフラを有効活用するために人々をまち中に住まわせ、都市をコンパクトな構造に変化させてきた。コンパクトシティといわれるこの都市政策は、わが国でもいくつかの都市で実験的に取り組まれてきたが、あまりうまくいっていないようだ。それは多くの地方都市が、地域経済の活性化や若者の域外流出防止のために企業を誘致し、工場勤務と農業との兼業が地域コミュニティを支えてきた歴史にある。その若者たちを地域から切り離してまち中に住まわせることは、里山コミュニティを崩壊させ、地域を衰退させることにつながるのだ。わが国で土地との結び付きを無視したコンパクトシティがうまくいかなかったのはそのためである。当市が目指す都市像を、コンパクトシティではなく「あじさい都市」とした理由がまさにそこにある。土地には土地なりの精霊が住む、という感覚があればこそ「あじさい都市」はそれぞれの地域にそれぞれの色や形の花を開かせる。地域に今でも残る伝統芸能や歴史資産を若者が守り育てる活動は、そういう意味でも大切なことだ。ローマ神話に出てくるゲニウス・ロキではあるが、どうやらわが国でも地域を守り育てるキーワードになりそうである。

 北上市長 髙橋敏彦

(令和2年11月27日発行広報きたかみ「珈琲ブレイク」より)

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更新日:2020年11月30日